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15092601.22 TPPで新薬価格が上昇すると起こる悲劇 脅かされる国民の命

(2015/09/26)

・ TPP交渉進展で懸念される新薬価格の上昇

自由の国アメリカでは新薬などの医療品の分野でも比較的活発に自由な競争が行われているそうです。結果として、高品質・高性能な新薬の価格は高価なものとなっているそうです。アメリカには日本のように国民全員が入る保険制度、国民皆保険制度にあたるものがないため、日本とくらべると国が負担する医療費も少ないものとなっています。そのせいかアメリカ政府としても新薬の価格高騰の緩和にはあまり積極的でもないのかもしれません。

今回のTPP交渉内容には新薬特許を認めるルールが含まれており、これをアメリカが主張しています。このルールが適用されるようになると、新薬の価格が上昇するだろうとみられています。日本では国民皆保険制度や医療費を国が7割負担する制度があるため、医療品の価格は新薬であっても政府が調整し、安く抑えているのが現状だそうです。これが値上がりする見込みですから、国全体の医療費負担は増え、私たち個人の医療費負担も増える見込みとなります。

・ 国、政府の最優先事項は国民の生命を守ることであるはず

新薬の値段が上がってしまうと、救えたはずの命が救われないという事態が起こることが予想されます。国民の命が脅かされるようなことが起きては、国、政府は何のために存在しているのか、その存在意義が根本から問われることになるでしょう。国民の命を守れない政府を国民が認めるはずありません。

何が起こるか、昨日に引き続きたとえ話を考えてみました。

・ 「ひとくちのアイス」 TPPさえなければ救えた命の話

妻が不治の病と診断されてから3年の月日が経ちました。健康診断の再検査通知を受けたときは、問題がないことを確認するための検査だから、何の問題もないのだ、などと妻をなだめて検査を受けさせましたが、まさかの診断結果でした。特に恵まれた生活を送っていた訳でもありませんが、私たちにとっては、それでも平和で幸せな暮らしを送っていたのだと、今になっては思います。

それから妻と私たち家族の闘病生活が始まりました。これといった治療法の存在しない病気をかかえたまま暮らしていくことは、出口のない迷路をさまようような不安のともなう生活でした。それでも明るく振舞う妻に私たち家族は逆に勇気付けられたりしながら、なんとか暮らしていました。

程なくして、その不安とストレスから開放される日が、不意に訪れました。不治の病とされていた妻の病気に効果があるという新薬がアメリカで開発されのです。私たち家族は、これで助かるのだ、あの何もない平和な日常に戻れるのだと、大喜びしたものです。

しかし、その新薬、手に入ることは手に入るのですが、値段のほうが、一月あたり20万円もかかる高価なものでした。しかも、その薬は病気が治るまで使い続ける必要があるとのことでした。それまでの治療にすでに貯金も底をつきかけていた我が家の財政ではとても対応できる金額ではありませんでした。急に20万円も収入を増やす手段など、簡単に見つかるものではありません。

私は自分の収入が少ないばかりに妻を救うことができないのかと落ち込んだものです。しかし、それでも生活費を節約し、5万、10万と費用を捻出して、半分でも4分の一でも効果が出ることを期待して新薬を買い続けました。TPPでの各国政府の交渉の結果、あと数年すれば新薬の価格も下がり、妻に十分な医療を受けさせることができるようになるのだと思い、また家族にもそう言い聞かせて、それなりに明るく頑張って暮らしていました。

そんな暮らしが続く中、ある日、妻が「アイスが食べたい。買ってきて。」と言い出しました。医者からは体が冷えるようなものは食べないようにと注意を受けていました。さらに糖分の取りすぎにも注意するようにとも言われていました。どちらも闘病生活では避けなければいけないことでした。このことは以前から、妻に対しても、注意していたせいもあり、妻はそれまで、アイスが食べたいなどと言ってきたことはありませんでした。

しかし、妻のアイス好きは病気発覚の前からのことで、以前は、冷蔵庫にも1リットルや2リットルの大きなアイスが常備されていたものです。私たちの闘病生活とともに、冷蔵庫にアイスが常備されることはなくなっていました。妻がそこまで言うのなら、少しくらい食べても大丈夫だろう、とは思いましが、その場は、一旦、「明日、買ってくる」と言って、おさめました。妻は嬉しそうな、残念そうな顔をしていました。

その夜、妻の容態は急変しました。闘病生活は、それまで何年も続いていたため、私たち家族も油断していたというのもあり、妻の異変に気付くのが遅れたせいもあったのでしょう。妻が病院に着いたころには、すでに手遅れの状態となっていました。後になって考えてみれば、虫の知らせというのでしょうか、妻はすでに自分の命が限界に来ていることを悟っていたのでしょう。

妻は宮沢賢治が好きだとも言っていましたので、これは、妹が死期を悟り雨雪を取ってきて欲しいと賢治に頼んだという話からきているだろうと、後になってから気付きました。妻は最後まで素敵な女性でした。死の寸前まで、私や家族のことを思い、せめて後悔のひとつでも減らせるようにとアイスを買ってくるように頼んできた妻の、その優しさに応えられかった自分がふがいなく思えてしかたがありません。

妻の死は私の収入が多ければ、私がもっとお金をもってさえいれば、防げたことかもしれません。しかし、もうひとう防ぐことができた可能性があります。それがTPP交渉で締結された新薬の特許保護期間の短縮化です。これは私の力不足であるとともに政治の失敗でもあるのです。

・ 新薬は高いほうが研究も進む しかし、命を救うのが医療の目的のはず

「ひとくちのアイス」のような話は、書いている私のほうが悲しい気分になってしまいます。しかし、十分起こりうる未来のひとつです。新薬に価値があること、価格が高いことがその研究費用を潤沢にして、研究を進展させているであろうことは理解できます。価値がないものであれば、十分な研究費用が得られずに、研究も進みにくくなってしまうことでしょう。しかし医療やその研究には、人の命を救うという大きな目的があるということを、忘れないでほしいと思います。

さらに医療関連だけでなく、戦争や災害などからも命を最優先で守らなければならない各国の政府の方々にいたっては、より一層、自分たちの決定がもたらす結果について、真摯に検討してほしいと思います。

監視犯罪もそうですが、国が国民を堂々と監視して、嫌がらせを行い、人権権利を侵害していた、などという訳にはいかないことでしょう。(2015/09/26)

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