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ブレジンスキーの壮大なチェスボード

ブレジンスキーの壮大なチェスボード
http://web.archive.org/web/20060213102749/http://www.idaten.to/meikyu/a060.html(魚拓)
●壮大なチェスボード

「クリントン大統領の力は、現在ますます弱まっているが、クリントン大統領が、ズビグニュー・ブレジンスキー博士(元カーター大統領の国家安全保障顧問)の提唱する狂気の地政学理論を押し付けられたら、現代における最大の“世界的大火災”が起きるだろう。」
 ブレジンスキーはペンを取り、滑稽な地政学的理論をなんと本1冊分もぶって、世界の世話を焼いた。その本のタイトルは、『壮大なチェスボード――アメリカの優越性とその戦略地政学的要請』(ニューヨーク、BasicBooks 1997)である。
 彼の無益なたわごとを全部読まなければならないという苦痛を、我々の読者に味わわせないために、我々はブレジンスキーが彼の“チェスボード・ファンタジー”の中で使っている概念の用語集を作成することにした。
(政界におけるブレジンスキーの有力な子孫の一人には、マデリン・オルブライト長官がいる。オルブライトは、オルブライト自身によれば、クリントン政権代表者委員会の“王女戦士ゼナ”なのである。)


●間抜けなイギリス+アメリカ帝国モデル

 ソ連が崩壊し、力を失ったロシアが現れたところから、ブレジンスキーは、“スーパーパワー・ポリティックス(超大国の政治)”について論じている。
 ブレジンスキーは、新たに登場したロシアを“ブラックホール”と呼んでいる。そして、アメリカは、冷戦後に唯一生き残った超大国であり、アメリカは、ユーラシア全体の支配を宣言するためのチャンスを、約10年間から20年間持っているというのである。
 ブレジンスキーは、次のように述べている。

「約500年前に、大陸の間で政治の相互作用が始まって以来、ユーラシアは世界の勢力の中心となってきた。そして、1990年代には、世界情勢に構造地質学的な変化が起こった。史上初めて、ヨーロッパ諸国の調停者として、ユーラシア以外の勢力が登場したのである。しかも世界の最強国として登場した。
 ソ連が敗北し、崩壊したことは、西半球の勢力=アメリカが、急速に支配力を強めていったプロセスにおける、最後のステップであった。アメリカは、真の唯一のグローバルな勢力となったのである。とはいえ、ユーラシアが地政学的に重要なのは、今も変わりはない。」

 そして、ブレジンスキーは、「冷戦後のアメリカにとって、最も獲得したい対象はユーラシアである」と述べている。

 ブレジンスキーは、著作の初めの部分において、アメリカが現在ヨーロッパに対して持っている“ヘゲモニー(支配・優越)”のモデルを見つけようとしている。ブレジンスキーは、“パックス・ロマーナ(ローマの支配下での平和)”と“イギリスの統治”をモデルにすることは避けている。

「我々は、“世界勢力(グローバル・パワー)”の今日の定義に近いものを探す場合、モンゴル帝国に注目する必要がある。モンゴル帝国は、国家体制の整った強大な敵国と激しい戦いを行い、戦いを通過して建国された帝国である。モンゴル帝国が破った相手は、ポーランドとハンガリーの王国、神聖ローマ帝国の軍隊、ロシアとロシアの公国の軍隊が数回、バグダッドのカリフ統治区域であった。後には、中国の宋さえも破っている。」


●イギリスの地政学的意義

 ブレジンスキーの本は、アメリカよりもロシアの方が多く売れたようである。ロシアのエリートは、アメリカの戦略を理解しようと思っているからである。さすがはイギリスの手先、ブレジンスキーである。
 ブレジンスキーは、ナッシュビルの土地均分論者であり、セシル・ローズの“ラウンドテーブル”の客引き、ウィリアム・ヤンデル・エリオットに育てられた。ブレジンスキーの兄弟分のライバルで、イギリスのスパイを自認しているサー・ヘンリー・キッシンジャー(KCMG)も、このエリオットに育てられている。
 キッシンジャーはナイト爵を持っていて、イギリス外務省の役人を動かすのにナイト爵を活用しているが、ブレジンスキーは英国びいきの態度はあまり見せていない。
 『壮大なチェスボード』では、ブレジンスキーは、アル・ゴア2世、“マッド・メドリング(狂ったおせっかい)”・オルブライトたちの最悪の政策に、イギリスが背後から口を出していることをわざとカムフラージュしているのである。

 ブレジンスキーが述べているのは、常にアメリカの地政学的利益に関することであり、イギリス・アメリカ陰謀団が陰で操っていることについては省いている。
 この陰謀団の中では、イギリスの“ベネチア党”が知的支配勢力となっており、伝統的なアメリカの諸団体が直面している諸問題を形成している。もちろんそんなことは、彼は述べていない。

 ブレジンスキーは、次のように述べている。
「今日のイギリスは、アメリカの同盟国として特別な位置を占めているが、戦略地政学的にはすでに引退した国である。それどころか、イギリスは戦略地政学の国ではないのである。
 イギリスは、大した選択肢はあまり持っていない。ヨーロッパの未来についての意欲的なビジョンもない。イギリスは、他のヨーロッパ諸国に比べると凋落傾向にあり、ヨーロッパのバランスを保つという伝統的な役割を果たす能力は下がっている。
 イギリスとアメリカの特別な関係は弱っているが、イギリスはアメリカとの関係に執着している。しかし、アメリカへの執着と、ヨーロッパの統合とは相反している。イギリスは、このような矛盾のために、ヨーロッパの将来を左右する大きな選択にはうまく対処できなくなっている。イギリスは、ヨーロッパのゲームにはあまり参加しなくなっているのである。」

「しかし、イギリスはアメリカにとっては今も間違いなく重要である。イギリスは、イギリス連邦に対しては、ある程度の影響力を持っている。しかし、常に大きな影響力を持っているわけではないし、意欲的なビジョンがあるわけではない。
 アメリカにとっては、イギリスは特に支援をしてくれる国であり、大変忠実な同盟国である。また、イギリスはアメリカにとっては必要不可欠な軍事基地であり、諜報活動という極めて重要な分野においては、強い協力関係にあるパートナーである。イギリスとの友情関係は育てていくべきである。
 しかし、イギリスの政策には注目し続ける必要はない。イギリスは戦略地政学のゲームからはすでに降りており、輝かしい栄冠の上に安穏としている。イギリスは、フランスやドイツと共に参加してきたヨーロッパの偉大な冒険からは、もうほとんど離れているのである。」

 ブレジンスキーは、イギリスは(ブレジンスキーのようなアメリカ人が、最近盛んに宣伝しているような危ない)地政学とは関係がないと言うのである。
 イギリスは、アメリカとの“特別な関係”を保っていることに満足しており、“大英帝国”の婉曲表現である“イギリス連邦”の範囲内で満足している、と彼は言う。


●アドルフ・ヒトラーの後を継いで

 本の中で、ブレジンスキーは地政学の歴史について論じているが、彼はその時にはガードを外している。ブレジンスキーが地政学と呼んでいるものは、マッキンダーとヒトラーのインチキ療法の変形であり、エドワード7世が皇太子だった時に、皇太子の手によって、第一次世界大戦の基礎とされている。
 この理論は、“ワーグナー・クレイス”(つまり、ハウストン・スチュワート・チェンバレンとワーグナー・クレイス)や、神秘主義的なトゥーレ・ソサエティなどの親イギリス団体に受け継がれた。
 ドイツの地政学者カール・ハウスホーファーは、このトゥーレ・ソサエティの一員であった。そして、これがヒトラーの『我が闘争』に流れ込み、第二次世界大戦の序曲になったのである。

 ブレジンスキーは、『地政学と戦略地政学』という章の初めに、このように述べている。
「かつてナポレオンはこう言った。
『その国の地理を知ることは、その国の外交政策を知ることである』と。」

 この章で、ブレジンスキーは次のように述べている。
「最近まで、地政学アナリストたちは、“ランド・パワー(陸の軍事力)の方が、シー・パワー(海の軍事力)よりも重要か”ということや、“ユーラシア全体を掌握するには、ユーラシアのどの地域が欠かせないか”というテーマについて論じてきた。
 ハロルド・マッキンダーは、今世紀の初めに、そのような議論を行ってきた著名な地政学者の一人である。彼は長い間、ユーラシアの“枢軸エリア”についての議論を展開してきた(そのエリアは、シベリア全土と中央アジアの大部分を含むと言われている)。
 後にマッキンダーは、「ユーラシアを掌握するためには、中央・東ヨーロッパの“ハートランド”が重要なスプリングボードである」と論じた。
 “ハートランド”という概念が有名になったのは、以下の有名な言葉による。

『東ヨーロッパを支配する者は、ハートランドを支配する。
 ハートランドを支配する者は、世界島を支配する。
 世界島を支配する者は、世界を支配する。』

 ドイツの政治地理学者は、ドイツの“ドラング・ナッハ・オーステン(東への勢力拡大)”を正当化するために、地政学を利用した。
 特に有名なのは、ドイツが必要としていた戦略計画に、カール・ハウスホーファーがマッキンダーの概念を当てはめたことである。もっと俗悪な形では、アドルフ・ヒトラーが、『ドイツ国民は“レーベンスラオム(生活空間)”が必要である』と強調するのに使われた。」

 ブレジンスキーは、もっと知っているはずだと述べている人もいる。
 「マッキンダーの地政学が、カール・ハウスホーファーをはじめとするイギリスの各方面に浸透し、それが後にヒトラーに影響を与えた」とブレジンスキーは書いているが、それ以上のものがあるはずだと言うのである。

 ということは、ブレジンスキーが、マッキンダーとハウスホーファーの地政学理論のポストモダン・バージョンを我々に公開しようとしているのは、びっくり仰天である。それは、ブレジンスキーの理論が、ヒトラーの戦略地政学理論を受け継いでいると表明していることになるからである。

ブレジンスキーはロシアを嫌っているが、それは、彼がポーランド貴族の末裔で、ポーランドがそのような“地政学理論”によって、相当に苦しめられたからというわけではない。彼がイギリスの手先だからという理由の方が明らかに大きいと思われる。


●サバイバーズ・クラブ

 ブレジンスキーは、ロシアの外交政策についての考え方を紹介することによって、上辺は取り繕っている。
 例えば、ロシアはアメリカとの戦略的パートナーシップを結ぶために、“西洋化推進国”になろうと努力しているし、近隣諸国とも同盟関係を結ぼうとしていることなどである。また、ロシアは、“ユーラシアニズム”という半神秘主義的な概念を有している。
 しかし、ブレジンスキーは、これらの政策が失敗していることについて、影で笑っているのである。

 明らかに、ブレジンスキーは、『壮大なチェスボード』全体を通して、中国とロシアが軍事的な同盟を結ぶことは許せないと思っている。中国とロシアが同盟を結べば、アメリカは、冷戦後の“獲得目標”であるユーラシアから追い出されるからである。
 ユーラシア・ランドブリッジなどの大規模なインフラストラクチャー計画を通して、ユーラシアを統合する“グランドデザイン”が提唱されているが、中国・ロシア・インドは、それにのっとった同盟を現在形成しつつある。
 中国は、それを“新シルクロード”という名前で呼んでいるが、ブレジンスキーは、それは最高に危険だと思っているのである。
 つまり、ブレジンスキーは、伝統的なアメリカン・システム、共和党の経済政策にはのっとっていないということになる。
 ランドブリッジと同じ概念は、エイブラハム・リンカーン大統領の主任エコノミストであったヘンリー・ケアリーがすでに提案を行っている。しかし、イギリスは陰謀によってリンカーンを暗殺した。
 イギリスは、アメリカに南北戦争を起こさせて、アメリカ国民の間で戦争をさせ、アメリカを分割して征服しようとしたのである。しかし、それが失敗に終わったので、リンカーンを暗殺したということである。

 ブレジンスキーは、次のように述べている。
「1996年の初め頃、エリツィン大統領は、西洋志向のアンドレイ・コズイレフ外相を解任し、エフゲニー・プリマコフを任命した。
 プリマコフは、コズイレフよりも経験豊かで、元共産主義の正統的な国際関係のスペシャリストである。プリマコフは長い間、イランと中国に関心を持っていた。
 あるロシア専門家は、次のように推測した。
『プリマコフの志向から言って、プリマコフは、新たな反ヘゲモニー的連立を作ろうとするだろう。プリマコフは、ロシア・中国・インドを中核とし、ユーラシアにおけるアメリカの優位性を奪うという、最大の地政学的賭けをするのではないだろうか。』
 この推測は、プリマコフが就任後に行ったいくつかの訪問と、コメントの数々によって裏付けられた。また、中国とイランは兵器の取り引きを行っているし、イランが原子力を手に入れようとしていることに対し、ロシアは協力する姿勢を見せている。
 このような事実は、これらの国々が政治的な対話を深め、同盟を形成するのではないかという推測は完璧に当たっているということを示している。この結果、少なくとも理論的には、世界で最も闘争的なイスラム勢力と、世界で最大の人口を持つ最強のアジア勢力が合体して、政治的な連立を形成するということになる。」

「ロシアは反ヘゲモニー的連立を真剣に固めようとしているが、中国はこのような連立におけるロシアの先輩パートナーになるだろう。
 中国はロシアよりも人口が多く、工業も進んでおり、ロシアよりも革新的でダイナミックである。また中国は、ロシアのある地域で進めようとしているプロジェクトもある。中国は、必然的にロシアを後輩パートナーの地位に甘んじさせるだろう。
 しかし、中国は、ロシアがその遅れを克服するために支援できるような手段は十分には持っておらず、心から望んでいるわけでもないと思われる。よって、ロシアは、拡張しつつあるヨーロッパと、拡張主義の中国の緩衝国となるだろう。」

 ブレジンスキーは、「中国がロシアと連帯して、世界的な勢力になるのを許すべきではない」というこの警告を、他の部分でも繰り返して行っている。
「中国が大国として浮上してきたことにより、戦略地政学における極めて重大な問題が浮かび上がった。最も問題なのは、民主化を推進して、自由市場を発達させつつある中国が、アジアの地域協力の枠組みの中に入ることである。
 しかし、もし中国が民主化せずに、経済と軍事力だけを強めたらどうだろうか?
 中国の近隣諸国が何を望もうとも、どのように計算しようとも、中国は浮上してくるだろう。そして、中国が浮上することを妨害しようとしても、中国との対立を深めるだけである。
 中国とアメリカが対立すれば、アメリカと日本の関係にひずみが出る可能性がある。その理由は、アメリカが中国を封じ込めようとした場合に、日本がアメリカに従うという保証は全くないからである。
 日本は、日本のアジアにおける役割を劇的に考え直すかもしれない。たとえ、日本がアメリカ軍を極東に駐留させないという決定を下す結果となったとしても。」

「最も危険なシナリオは、中国とロシア、それにイランも加わるかもしれないが、イデオロギーによるのではなくて、お互いの不満を補足し合うために、巨大な反ヘゲモニーの連立を作ることである。
 このような連立のスケールとビジョンの大きさは、中国とソ連がかつて作った同盟を思い出させる。かつての同盟と違う点は、中国がリーダーであり、ロシアがそれに従うということである。
 また、すぐにはそのような連立は実現しないとしても、そのような事態を避けるためには、アメリカが、ユーラシアの西部・東部・南部において、同時に戦略地政学的手腕を示すことが必要不可欠である。」

 以上のように、ブレジンスキーは、「サバイバーズ・クラブは、ユーラシアの支配を望む国にとっては、最も危険な地政学的勢力である」と述べているのである。
 繰り返すが、ブレジンスキーはイギリスのクラブ・オブ・アイルズと協力関係にある。クラブ・オブ・アイルズは、二度の大戦を経て登場してきたが、当時のクラブ・オブ・アイルズは、労働党の大逆的なアングロ・アメリカンの陰謀によって扇動されていた。
 例えば、E.H.ハリマン、サー・ジョージ・ブッシュの父であるプレスコット・ブッシュ、イングランド銀行総裁モンタギュー・ノーマンは、疲れ切ったドイツ国民を酷使しているヒトラーに対して資金援助を行った。
 彼らは、ユーラシアが、ランドブリッジ構想のような真のグローバルな経済発展を中心として、統合に向かうことを妨害しようとしたのである。


●NATO拡大と中国

 ロシアが反対したのはもっともであったにもかかわらず、ブレジンスキーは、「NATOは防衛を目的とした冷戦後の同盟であり、元ソ連の緩衝諸国も含めて、NATOを拡張することは、最も重要な課題である」と繰り返し強調している。
 彼は、なんとこのように述べている。
「民主主義の橋頭堡であるNATOは、拡大する必要がある。ポーランドからウクライナまで、そしてすでにかなり後退したロシアの国境線まで拡大するべきである。その一例を挙げると以下のようになる。」

「NATO拡大に当たって、最も重要なことは、アメリカがヨーロッパで長期的な役割を果たすということである。
 新しいヨーロッパは、まだ形が整いつつある最中である。もし新しいヨーロッパが、地政学的に“ユーロ・アトランティック”地域の一部であり続けるならば、NATOの拡大はぜひとも必要である。
 もしアメリカが始めたNATOの拡張政策がストップしたり、滞るようなことがあれば、アメリカがユーラシア全体に対して取ろうとしている包括的な政策は、実現不可能となる。その政策の失敗は、アメリカの指導力に対する信用を失わせることになる。
 ヨーロッパの拡大という概念は破壊され、中央ヨーロッパの国民の士気は下がるだろう。ロシアは、中央ヨーロッパに勢力を伸ばそうという意欲はあまりないし、完全になくなりつつあるが、その意欲を再燃させる結果となるだろう。
 欧米にとっては、自ら蒔いた種である。
 ユーラシアに関する安全保障は、その構想におけるヨーロッパの中軸を失い、将来の見通しは致命的なダメージを受けるだろう。これは、アメリカにとっては、地域的な敗北だけでなく、世界的な敗北を意味している。」

 以上のように、ブレジンスキーは、ロシアの国境線まで広がる“橋頭堡”を確保するために、NATOの拡張と域外配備を押し進めようとしているのである。
 どのような危険性があろうとも、特にロシアを封じ込めるという点と、第三次大戦が起こる方向に世界を持っていくという観点から、ブレジンスキーはNATO拡大を追求しているのである。

 ブレジンスキーは、『極東の錨』の章において、次のような主張を展開している。
「クリントン大統領は、中国と“建設的な戦略的パートナーシップ”を結ぶという宣言をしているが、中国が“世界的勢力(グローバル・パワー)”となることは許してはならない。中国は“地域的勢力(リージョナル・パワー)”のままに封じ込めておくべきである。中国は、究極的にはアメリカに復讐したいと思っているからである(これはブレジンスキーの嘘である)。
 アメリカに対して中国が最も不服に思っている点は、アメリカの行為にあるのではなく、“アメリカが何であるか”という点と、アメリカの位置的な問題である。
 中国は、アメリカは“世界の覇権国”だと見なしている。アメリカは、日本に対する支配的な地位を根拠に極東地域に駐留しているが、それは中国の影響力を抑える役割を果たしていると思っているのである。」

 ブレジンスキーは、「中国のアキレス腱は、エネルギーと食糧の入手に関するものであり、これは、中国が世界勢力になるのを妨害する兵器として使うことが可能である」と述べている。


●中央アジアの石油をセシル・ローズ式に掌握する

 中央アジアには、石油とガスの巨大な資源が埋蔵されているが、ブレジンスキーは、その資源を“セシル・ローズ”式に手に入れるためにはどうすべきかについて、一章を割いて述べている。
 ブレジンスキーは、「石油に基づくこれらの資源は、特にロシアと中国に渡さないために、イギリスとアメリカの十分な管理の下に置く必要がある」と述べている。

「ヨーロッパでは、“バルカン諸国”という言葉は“民族紛争”と“大国との地域的な対立”というイメージがある。
 ユーラシアも、また独自の“バルカン諸国”を有している。しかし、ユーラシアのバルカン諸国は、もっと巨大で人口も多く、宗教的にも民族的にも異質のグループが集まっている。バルカン諸国は、世界的な不安定さの中央ゾーンに位置している。……
 バルカン諸国は、ヨーロッパの東南部、中央アジア、南アジアの一部、ペルシャ湾岸地域、中東にまたがっている。」

「ユーラシア・バルカン諸国は、その巨大な楕円形の中核を形成する。
 バルカン諸国は、その外の区域とは、ある一点において異なっている。それは“パワー・バキューム(真空吸入機)”だということである。」

「ユーラシア・バルカン諸国は、少なくとも近隣の大国3ヶ国、すなわち、ロシア・トルコ・イランの歴史的野望の対象であった。そういう意味でバルカン諸国は重要である。
 その3ヶ国と中国は、バルカン諸国に対する関心をますます強めている。
 しかし、ユーラシア・バルカン諸国を獲得する価値が極めて高いのは、経済の将来性という点においてである。天然ガスと石油の埋蔵量とその集中度、そして、金を含めた重要な鉱物資源などである。」

「アジアの経済成長の勢いは、新たな資源とエネルギーの実地踏査と開発を増大させ、それが大規模な圧力となっている。中央アジアとカスピ海海盆は、クウェート、メキシコ湾、北海などとは比べ物にならないくらい、天然ガスと石油の埋蔵量があることで知られている。」

 ブレジンスキーは、「中央アジアは“パワー・バキューム”であるだけでなく、それぞれの国が、深刻な国内問題を抱えている」と述べている。
 ここで、ブレジンスキーは、イギリスが石油の多国籍企業を支配しており、中央アジアの金持ち階級の主な“賭け金保管人”になっていることを当然知っているはずである。ブレジンスキーは、特にロシアが石油に手を出せないように、緻密に計画を立てているのである。


●“危機のアーク”の拡大

 第二章『ユーラシアのチェスボード』では、ブレジンスキーは、“世界の暴力浸透ゾーン”という見方を提示している。
 「このゾーンを巧みに操作すれば、ユーラシアの統合を妨害することが可能である」とブレジンスキーは述べている。この計画は、ブレジンスキーが以前提唱していた『危機のアーク』理論よりも、大きな視野を持っている。
 『危機のアーク』理論は、イギリスのスパイ、バーナード・ルイスの計画をベースにして作られた。ルイスは、その計画に基づいて、アフガニスタンにおいてソ連にとっての“ベトナム戦争”危機を作り出すために、アメリカがアフガニスタンを援助するように働きかけたのである。

 『壮大なチェスボード』の地図によれば、“暴力浸透”ゾーンは中央アジア全域を含み、西はトルコ、北はロシア南部、東は中国の西の国境地帯まで広がっている。
 中東全域もそのゾーンに入っているが、ブレジンスキーは、中東はアメリカの管理の下に置くことが必要であると述べている。特に、危険の大きいペルシャ湾岸は必要不可欠であると言っている。
 さらに東方面では、アフガニスタンとパキスタンが含まれており、パキスタンと中国の国境までがそのゾーンの範囲となっている。

 ブレジンスキーは、イギリスの帝国主義的“グレートゲーム”と併せて、この“世界の暴力浸透地域”をうまく操作すれば、ロシアが再び帝国主義勢力になるのを防ぐことができると主張している。
「ロシアの経済に対して、どの程度の援助を行うべきだろうか。ロシアの経済を支援すれば、必然的にロシアの政治と軍事も強化される。
 ロシアが大国であることと、ロシアの民主主義とは両立可能なのだろうか。ロシアが再び強くなれば、失った領土を取り戻そうとするのではないだろうか。その場合に、“民主主義の帝国”というのはあり得るのだろうか。」

「ロシアの国内状況の回復は、ロシアの民主化、ひいては“ヨーロッパ化”のために必要不可欠である。しかし、ロシアの潜在的な帝国的性格が復活することは、ロシアの民主化とヨーロッパ化にとっては有害である。」

 よって、この“世界の暴力浸透ゾーン”を操って――たまたまこのゾーンは、天然資源の豊富な地域なのだが、ブレジンスキーは、ロシアをさらに封じ込め、弱体化させることを提案している。

 中国とロシア、つまり第二次世界大戦でフランクリン・ルーズベルトが同盟を結んだ国と、アメリカが戦略的パートナーシップを結ぶことによって、ユーラシア・ランドブリッジを形成することが提唱されているが、そのような視野で、『壮大なチェスボード』の狂気の地政学を読むならば、ブレジンスキーのナンセンスを信用するような正気でない政治家集団が、第三次世界大戦への道を用意してきたことが明らかとなる。
 保守党のイギリス・アメリカ連合の裏切り者は、景気後退による崩壊に直面するたびごとに戦争を起こし、世界の支配権を守ろうとしてきたのである。
 ブレジンスキーの『壮大なチェスボード』は、そのような戦争をいかに始めるかの青写真である。現実に戦争が起こったら、人類の大部分は、幾世代も続くニューダークエイジに突入することになるだろう(サバイバーズ・クラブの中国だけは、比較的無傷で残るかもしれないが)。

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